PART 2
12時。いよいよ本番が始まった。高橋は大島が出演できないことを最初にお詫びし、そつなく番組を進行していった。
今日のメインテーマは、1500円以下での食べ放題、というものだった。(何か、初回の目玉にしてはありきたりな企画ね・・・)と思いながらも奈美は、高橋からふられる度に笑顔で適当なコメントを返した。しかし、お笑いタレント達のコメントが面白く、奈美の素朴なコメントとあいまって、テーマの割には番組は盛り上がっていると言えた。
そして、12時20分を過ぎた頃。その事件は起きた。急にスタジオの奥が騒がしくなり、高橋に一枚の紙を渡した。ちらっとその内容に眼をやった高橋の表情に緊張が走る。ただならない様子に奈美は不安になった。(何? なにか大事件かしら? ひょっとしたら緊急特番になっちゃうのかも)
「緊急ニュースです。ただいま中野区のk信用金庫に強盗が入り逃走に失敗、内部に立てこもっている模様です。犯人は5人組で行員と客を人質に取り、非常に興奮している状況です。以降は番組の内容を急遽変更いたしまして、この事件の中継とさせていただきます。」
高橋が緊張した面持ちのまま告げた。スタジオのざわつきはさらに高まる。
奈美も緊張する。(え、強盗? かわいそう。だけど、私、どうしたらいいのかしら? とにかく話を振られたら落ち着いて意見を言うのよ)
再び紙が高橋に手渡される。
「えー、詳しい状況が入って参りました。犯人はやはり5人組、うち一人は女性で銃を全員所有しています。中にいる行員は3名、客は5人、うち一人は5歳の女の子ということです。警察が周囲を完全に取り囲み、説得にあたっておりますが、犯人は逃走資金と逃走用の車を要求している模様です。」
テレビカメラは信用金庫を取り巻く警官隊を映し出していた。スタジオには重苦しい雰囲気が漂った。犯人が5人で人質が8人、うち一人が子供では犯人の眼をくらまして何らかの行動を起こすことは不可能だ。
「難しいことになってしまいました。もちろん人命第一に考えて行動すべきであることは言うまでもありません。しかし、簡単に犯人の要求に応じてしまっては、今後このような犯罪を誘発することになってしまいます。警察は粘り強い説得を行いながら打開策を探るという難しい対応を迫られることになりそうです。」
高橋がお笑い系とは思えないほど的確かなコメントをする。
「竹井くんはどう思う?」
高橋はとりあえずゲストに端からコメントさせることにしたようだ。奈美は4番目ということになる。
「そうですね。やっぱり妥協は絶対いけないと思います。多少の犠牲はあっても犯人を全員逮捕すべきです。」
21歳の竹井は若者らしい正義感を全面に押し出してコメントした。
しかし、奈美はそのコメントに違和感を覚えた。
(だけど、「多少の犠牲」って言うけど、人質に何かあったらどうするのよ? 少なくとも、5歳の女の子だけは何があっても守るべきよ)
そう考えていると、高橋が
「じゃあ、奈美ちゃんはどうかな?」
と順番を無視して奈美にコメントを振ってきた。
(え、どうして私?)
動揺した奈美だが、思ったままを言うしかなかった。
「あ、あの。私は例え犯人を逃がすことになっても、やっぱり人命を尊重すべきだと思います。特に5歳の女の子だけは何をしてでも守ってあげるべきです。」
高橋と仲川、美玲、松田敏が頷くのを見て、奈美はほっとした。
(そうよね。私が言ってることの方が正論よね)
ゲスト達のコメントが一通り終わった頃、また一枚の紙が高橋に渡される。「えー、ただいま、犯人側からの新たな要求が出される模様です。何か新展開があるでしょうか。現場の中継を見ましょう」
カメラがスタジオから現場中継に切り替わった。信用金庫が大写しになる。「では、これからな新たな要求を発表する。」
中からスピーカで拡大したような男の声が響いた。
「FTVの中継の連中を中に入れろ。ただし、一人だけだ。交渉はテレビを通して行うことにする。」
FTVのスタジオに広がったのは、やった、という歓迎の空気だった。願ってもないスクープ映像を独占取材できるのだ。大島が出演できないという失点を回復して余りある展開だ。警察がすぐに承諾したため、カメラの人間だけが、音声の機材も抱えて中へ入っていった。
「これは大変なことになりました。この特別番組は事件解決まで拡大して、ノーカットで放送させて頂くこととします。それでは、カメラの準備ができたようですので、映像を切り替えます。k信金内部です」
高橋が興奮した声で告げた。
カメラには、内部の様子が映し出された。ぐるっと中を一巡して全体の様子を映す。
その結果、状況が極めて困難であることが改めて判明した。銃は全員が2丁ずつ持っており、全ての人質に対して銃口を向けていた。構えられている銃は計10丁あるので、一人はカメラマンに銃口を向けている。また、唯一の男子行員は何らかの抵抗をしたのか銃で殴られたらしく、頭に傷が出来て若干の血を流していた。あまりのことにスタジオの皆が絶句した。
カメラマンに銃を向けている主犯格らしき男が、カメラに向かって言った。「おい、高橋、聞こえるか?」
金庫内にもテレビがあり、FTVが映されており、内部の全員からその画像を見ることができるようになっていた。画像は2分割に変わり、左側に犯人、右側に高橋が映し出される。
「はい、聞こえますよ。あなた方の目的は何ですか?」
自分の姿が犯人に見られていることを知った高橋は、さらに姿勢を正して毅然とした声を出した。
「それはポリ公どもに言ってあるよ。要求を守らなきゃ皆殺しにするまでだ。それより、そこに田村奈美ちゃんがいるよな? ちょっと代わってくれ」
いきなりの指名に、奈美はビクっとした。(何で私が? どうしたらいいの)救いを求めるようにスタジオの奥に眼をやるが、仲川達は奈美を見つめて頷くばかりだ。
画面の右側が奈美に代わった。急に当事者になってしまい、おどおどした様子の奈美が映し出される。
「よう、奈美ちゃん、さっきは気の利いたコメントしてたじゃねーか。犯人を逃がしても人命尊重すべきだって? ありがとな。俺もそう思うぜ。」
インテリ風の主犯格の男はにやにや笑いながらしゃべりかけた。
「え、ええ。」
どうやら敵意は持っていないと分かって少しほっとしたが、犯人の真意が見えない奈美は曖昧な生返事しかできなかった。
「それから、5歳の女の子は何をしてでも助けるべき、とも言ってたよな? 俺もそう思うぜ。人質にしてても手がかかるばっかしだしなー。」
犯人は言葉を続けた。犯人の指示で、カメラがその女の子を映す。おさげをした、顔立ちの整った可愛い女の子だ。しかし、今は恐怖で母親にしがみついている。
「そ、そうです。子供だけはどうか解放してあげて下さい。そのお母さんも一緒に。」
ひょっとしたら自分のコメントのおかげで人質を二人助けられるかも知れない。心根の優しい奈美は必死になっていた。
「おっと、さっきは子供だけだったのに、今度はお母さんも一緒、か? 調子に乗りやがって、しょうがねえなあ、ま、いいか」
犯人が笑う。(やった!)奈美は内心で小さくガッツポーズを取った。自分が勇気を出して言ったコメントが役に立ったのだ。
しかし、その後の言葉は奈美の予想外だった。
「ただし、条件がある。警察の対応が遅くて俺達もいらいらしてるんだよ。それでさ、奈美ちゃん、ちょっと俺達を楽しませてくれないかな?」
「え?」
奈美は何のことか分からず、身を固くした。(まさか・・・)最悪のケースが頭をよぎる。「楽しませるって、何ですか?」
「だからあ、そこでスカート上げてパンティ見せろって言ってんの!」
犯人がにやにやしながら言った。奈美の悪い予感が見事に当たってしまった。
「おまえ、何でもするって言っただろ? それなら、子供の命のためならパンティ見せるくらい何でもないだろーが?」
落ち着いた口調で犯人が奈美を追い詰める。
「それは、犯人を逃がしてしまっても、という意味で・・・第一、私がそんなことをしたってあなた方の得にはならないじゃないですか」
さっきのコメントとの齟齬を指摘され、奈美の反論は苦しいものにならざるを得なかった。
「だから、暇つぶしになるんだよ。もちろん、警察が俺達の要求を全面的に聞き入れたら終わりにしてやるぜ。」
あまりにも勝手な言いがかりだったが、一応は筋の通った犯人の言い分だった。
「じゃあ、奈美ちゃんがここでスカートを上げてパンティを見せれば人質の親子を解放していただけるんですね?」
高橋が会話に割り込んできた。奈美の羞恥など問題無い、と言わんばかりの口調に奈美は唇を噛んだ。これでは奈美は拒否のしようがない。(ひどい、高橋さん。さっきまでは少し見直してたのに・・・)
「やっぱりスカートは脱いでもらおうかな。とりあえず。できるだけエッチな演出で頼むぜ。」
犯人の要求が若干エスカレートした。
とりあえず、と言う言葉に奈美はひっかかったが、高橋は、
「分かりました。じゃあ、そうしましょう。約束はお互いに守りましょう。」
と話を進めてしまった。
こうして田村奈美主演、銀行強盗演出、全国へテレビで生中継の羞恥ショーが始まることになった。
奈美は高橋に促されて立ち上がり、スタジオの中央に一人立った。照明が奈美に集中し、周りを3台のカメラが取り囲んでいる。モニターが奈美の正面にあるため、全国へ放送されている映像を奈美も確かめることができる。
犯人の命令により、画面の左から犯人の画像が消され、奈美だけのアップとなり、犯人からの指示は音声で行われることになった。今は犯人の指示により、奈美の下半身を下から狙った画像になっている。ピンクのスカートから出た太股のアップとスカートの陰の内股までがモニターに映し出され、奈美は恥ずかしさに頬を染めた。
「ムチムチして、かわいいあんよだねえ。じゃあ、そろそろスカート脱いでもらおうか。できるだけ色っぽくな。カメラさんたちも分かってるだろうな、たっぷりサービスショットを見せてくれよ」
犯人の要求がスタジオに響いた。
「それでは、奈美ちゃん、辛いだろうけど、子供のためにお願いします。」
高橋が重々しい口調で言った。しかし、その表情にはどこか期待しているような不謹慎な様子が感じられた。
(そんな・・・これって、今、全国に生放送されているのよ。それなのにスカート脱げなんて・・・ そんなのいやよ、あんまりだわ。)
どうしても踏ん切れない奈美だった。そんな奈美の困惑した様子を仲川は満足そうに眺めていた。
その時、
「キャー、やめてえ」
という女の声が響いた。画面が現場に切り替わる。
犯人の一人が片手の銃をナイフに持ち替え、子供の頬をピタピタ叩いていた。
「これ以上待たせるとこっちはこっちで暇つぶししてもいいんだぜ。お姉ちゃんはパンティ見られる位なら子供のほっぺに傷が付く方がましみたいだからな」
主犯の男の声が響いた。
「さ、奈美ちゃん、早く!」
高橋が奈美を急かした。
(そ、そうよ、子供のためよ。やるしかないわ・・・)
悲壮な決意をした奈美は眼をつぶって両手をスカートの裾に持っていった。震える指でフックを外し、ジッパーを下ろす。
あとはスカートを下ろすだけだ。しかし、そうしたら下半身を覆うのはパンティだけになってしまう・・・ おそるおそる眼を上げると、スタッフもゲストも仲川達も、全員が自分の下半身を注視しているのが分かった。カメラもしっかり正面から狙っている。モニターには、恥ずかしさにためらう自分の全身像が映されていた。
一瞬ためらった後、覚悟を決めた奈美は、眼を固くつぶってゆっくりとスカートを下ろしていった。奈美にとって幸いなことに、ブラウスの裾が長かったため、パンティは露出しなくて済んでいた。しかし、スカートに隠されていた太股はぎりぎりまで露出する。恥ずかしさに真っ赤になりながら、奈美はパンティを見られないよう、モニターを見ながらスカートを注意深く取り去ろうとする。しかし、画像が奈美の後ろから狙っていたカメラに切り替わると、ピンクのパンティに包まれた奈美の尻が後ろに突き出されている様子が大写しになってしまった。
「ひ、ひどいわ!」
奈美は思わずそう口走りながら、慌ててスカートを取り去り、姿勢を直す。
水着になることすら頑なに拒否していた奈美が、スカートを脱いだ姿を晒して立ちつくしている・・・右手で下半身の前を、左手で後ろを必死に隠しているのがまたいじらしかった。しかし、小さな手では適度に肉付きのある下半身をほとんど隠すことができない。カメラは奈美が隠したい恥ずかしい部分を容赦なく映し出していく。
モニターの画像は正面にあるので、否が応でも奈美の視界に入る。
(ついにスカートを脱いでしまった・・・この姿が今、全国中継されているなんて・・・)
奈美は異常な状況に体の震えを押さえられなかった。
「約束を守りました。どうか子供を解放してあげて下さい。」
これで恥ずかしい思いも終わりだわ・・・奈美はそう思いながら必死に犯人に話しかけた。
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